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名古屋大学 学生支援本部
アビリティ支援センター

教職員

合理的配慮とは1

1.概要

日本は国連の「障害者の権利に関する条約」に批准し、これにともなって「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」(以下、「障害者差別解消法」)が制定されています。この中で障害のある人が他の人と同様の権利を保障するための措置として、合理的配慮の提供が定められています。日本国内の大学はすべてこの合理的配慮の提供義務を負っており、名古屋大学でもこのための体制が整備されています。

大学における合理的配慮については以下のようにまとめられています。

障害のある者が、他の者と平等に「教育を受ける権利」を享有・行使することを確保するために、大学等が必要かつ適当な変更・調整を行うことであり、障害のある学生に対し、その状況に応じて、大学等において教育を受ける場合に個別に必要とされるもの」であり、かつ「大学等に対して、体制面、財政面において、均衡を失した又は過度の負担を課さないもの

障がいのある学生の修学支援に関する検討会報告(第一次まとめ)

2.合理的配慮の位置づけ

合理的配慮の背後にある考え方は、障害の「社会モデル」と呼ばれるものです。これは、「医学モデル」と対比されるもので、医学モデルが個人に障害(これをimpairmentと呼んだりします)があると見なすのに対し、社会モデルでは個人にとっての障壁(barrier)が社会にあるために障害(disability)が生じると見なします。合理的配慮はこの障壁を取り除くための個別の調整を意味しています。

なお、個別ではない障壁の除去の措置は事前的改善措置などと呼ばれ、障害があっても問題とならないバリアフリー、誰にとっても使いやすいユニバーサルデザインなどが代表的なものです。また、合理的配慮の原語はreasonable accommodationで、意味合いとしては合理的な調整と訳すことが適切だとされています。

たとえば、足が不自由であることは医学的な意味での障害です。しかし車いすによって移動は可能です。この場合、disabilityはないということになります。ところが、道に段差があると車いすでの移動が制限されます。これが障壁です。この障壁は道路の整備に由来するものであるため、障害を生み出しているのは社会の側にあり、この除去は社会の責任で為される必要がある、という考え方が社会モデルです。

言い換えれば、disabilityとは権利が侵害されている状態であり、合理的配慮とはこの権利の回復、擁護のための個別の措置という位置づけになります。一般に合理的配慮は障害のある学生の支援として論じられますが、学生相談などのような個人の発達・成長を促すものでもなく、また弱者への配慮として行われるものでもありません。権利侵害に対する措置であるという点では、ハラスメントに関する支援に近いと言えます。とはいえ、障害に関しては誰が加害者かということがもともと明確ではないために、事業者(大学では各大学)が責任の主体ということになり、より具体的には学生の所属する部局がこれを担うということになっています。

3.合理的配慮の考え方

合理的配慮の定義は上に述べた通りです。これをより具体的にすると、以下のような要素から成り立つものであると言えます。

  • 目的:「教育を受ける権利」を保証する
    他の学生が受けられる教育、あるいは教育上利用できるサービスはすべて保証される必要があります。
  • 手段(1):必要かつ適当な変更・調整を行う
    上記のために授業の提供の仕方に変更や調整が加えられます。具体的には代表的な支援メニューや実例集などをご覧ください。
  • 制限
    • 教育を受ける場合に個別に必要とされるもの
      学生の障害や困難に応じて変更・調整がされますので、前例の有無に関わらず、必要な措置をその都度検討することになります(既存の変更・調整が適切であればその適用は問題ありません)。他方、他の学生が享受・行使している権利を保障するもので、それ以上のものとはなりません。
    • 均衡を失しないもの
      変更・調整は一定の範囲内に留まります。その規準は、授業の目的や本質を損なわない範囲であること、他の学生の不利益にならないこと、などです。
    • 過度の負担を課さないもの
      経済的、体制上の、人的負担なども考慮されます。障害に応じて必要である変更・調整がすべて行えるわけではありません。
  • 手段(2):建設的対話
    学生の求める措置を実現する上で、教職員が一方的に変更・調整を決定することはできません。本人と関係者でこれを協議し、合意を目指します。これを建設的対話と呼んでいます。学生の求める措置が実現できるものではない場合にも、建設的対話を通して、次善の対応策を考えることになります。

例を挙げます。英語の授業で、聞き取りに困難のある学生がいるとします。学生から合理的配慮の申請があれば、必要な変更・調整を検討します。ここで、ワイヤレスマイクを使用して直接教員の音声を学生のイヤホンに流すという方法が希望されたとします。通常、これは授業の目的や機能、本質を損なうものにはなりません。また、他の学生の不利益になるものでもないため、合理的配慮の内容となります。教員によっては前例がないことや特別扱いになることを危惧するかもしれませんが、そのことは合理的配慮の提供に制約をかけるものではありません。しかし、学生が英語の音声を日本語に翻訳することを求めた場合、これは授業の目的や機能、本質を変更するものになりえます。仮にそうでないとしても翻訳のために教員の手が取られると、他の学生には不利益が生じます。アシスタントがつけば可能かもしれませんが、人的、経済的、体制な面でこれが可能でない場合もあります。そのような時は合理的配慮とは認められない、または提供できないということがありえます。この場合には、英語の音声理解が困難であることについて、学生と一緒にノートテイクやspeech-to-textのアプリなどの利用を検討するかもしれません。

こちらもご覧ください。

合理的配慮

実例集・Q&A

1.実例集

名古屋大学で実際に提供された合理的配慮について、個人が特定できない範囲で、学生の障害や困難とともにいくつかお示しします。学生の指導や対応、合理的配慮の検討にお役立てください。また、これらは合理的配慮の手続きを踏まなければ提供してはいけないというものではありませんので、必要に応じて適用していただけます。

例1)内容理解の困難

困難:読み書き聞き話すことに問題はないが、授業の内容理解が難しかった。授業中よく話を聞き、ノートを取るが、内容が頭に残らず、復習に多くの時間がかかり、学修全体が停滞するという問題があった。

措置:自分で学修に取り組む学生ではあったため、合理的配慮として、履修予定の授業について、(コロナ禍のもとであったため)前年度の授業動画をTACT(当時のNUCT)にあげてもらい、長期休業中に予習をすることで授業理解が容易となった。


例2)課題管理の困難

困難:発達障害に由来する集中力のムラや課題への取り掛かりの遅さ、またどれくらいの作業をどれくらいの時間でこなせるかといった時間管理の問題などのために、期限までに課題の提出が行えない。提出そのものを忘れてしまうことがある。

措置:課題提出期限の延長を行い、学修結果の評価を受ける機会を保証した。それとともに、合理的配慮の対象外の各種支援(アビリティ支援センターの自習スペースの利用、相談員によるTACTによる課題および提出状況の管理の手助け、リマインダーアプリの助言など)も組み合わせて、課題に取り組む能力を支えた。


例3)聴覚敵情報処理の問題

困難:ゼミで指導教員が行ったことが理解できず、同じミスをしたり、聞き直しが多く、言われたことが次の時に直っていないなどがあり、能力の問題が感じられた。

措置:面談を行ったところ、声は聞こえても、聞き取った言葉が頭の中で定着するのに時間がかかり、処理がオーバフローしてしまうことがありそうであった。そのため、相談員が指導教員と面談をして、言葉を短くし、指示はテキストで残すなどの対応をしてもらった。それによって聞き漏らしや誤解が少なくなり、指導もしやすくなった。


例4)やる気のないように見える問題

困難:低単位取得の気になる学生として学期ごとに部局が面談を行っていたが、学生は面談を無断で欠席するなど本人からは学業へのやる気が感じられず、指導の難しい学生と捉えられていた。

措置:ある年に面談を担当した教員と共にアビリティ支援センターに相談に来たところ、幼少期から同様の傾向があることが分かり、発達障害専門医の受診が促された。その結果、薬物療法が開始され、効果が示された。また、課題の期限延長を含む合理的配慮が提供され取得単位数が増えた。相談員は学期ごとの学修計画を立てる際に面談し、実現可能な計画を設定する助言を行った。


例5)レポート作成の問題

困難:短答式のテストでは優れた成績を示す一方で、レポートが書けず、リアクションペーパーの提出も期限内で終えることが出来ず成績不振となり、次第に抑うつ的になり休学した。

措置:発達障害に由来して認知処理の困難さがあり、言葉の意味を推測したり抽象的な思考をすることに時間がかかり、会話においても、レポート等の作文においても言葉を使うことに問題のあることが明らかになった。講義資料を何度でも見返せるよう提供するとともに、レポート作成のためのスキルを学び、学修支援を行った。


例6)連絡が取れない問題

困難:突然ゼミの指導教員と連絡が取れなくなることが頻発し,事務を通して家族に連絡を入れることもあった。しかしその都度しばらくすると,本人は何事もなかったかのようにゼミに復帰し,悪気もなく過ごしているので対応に苦慮していた。

措置:本人と面談を行い,コミュニケーションの苦手や不安の高さから,やり取りを避けてしまうことがあると明らかになった。指導教員と本人との間でそうした特性を共有し,対応策を共に考案した。また,メール文章の作成スキルを提供するなど学修支援を行った。


例7)体調不良の問題

困難:精神的な疾患に基づく体調不良により,通学して授業を受けることが困難であった。日によって体調に波があり,服薬治療を行っていても毎日の通学は現実的ではなかった。

措置:学部教員および授業担当教員を交えて話し合い,オンラインまたはオンデマンド形式での受講が認められた。オンラインでの受講が不可とされた授業においては,対面参加を基本とし,欠席した場合は代替課題の設定などを行った。


例8)学期末の混乱

困難:課題提出の締切日や試験日を把握することが苦手で,未提出や遅刻・欠席が重なっていた。学期末は特に混乱し,何もできないまま授業最終日を迎え単位を取得できないこともあった。

措置:相談員との面談で幼少期から同様の傾向が見られたと明らかになり,その後医療機関を受診したところ,発達障害と診断され服薬治療を開始した。合理的配慮を申請し,授業に関する通知はすべてTACT等を通じ文書で確認できるようにすると同時に,相談員との面談を継続し,タスクの管理やスケジュールの立て方を学んだ。


例9)聞こえの問題

困難:聞き取りに困難がある学生で、オンラインによる授業を受けていたが、イヤホンでは音声がうまく聞き取れなかった。スピーカーから出る音声であれば聞き取りに問題はないとのことであった。

措置:時間割上、自宅でオンライン参加はできなかったため、事務室と協議の上、合理的配慮として空いている教室を使用できるようにして、スピーカーで音声を流すようにした。スピーカーは小型のもので自分のロッカーにしまっていた。


2.Q&A

合理的配慮の出ている学生には成績をつける際にも配慮が必要でしょうか

合理的配慮は教育を受ける権利を保障するものであって、大学ではその結果を保証するものではありません。そのため成績をつける時には他の学生と同様にお願いします(教育上の配慮として成績評価の考慮を行うかどうかも他の学生と同様にお願いします)。
なお、成績評価の方法(試験、レポート、発表など)では変更・調整をお願いすることがあります。これについては「障害等を理由とする修学上の支援の実施について(回答)」に記載されており、記載がない際には変更・調整は必要ありません。


合理的配慮(「障害等を理由とする修学上の支援の実施について(回答)」にある内容)は必ず実施しなければいけませんか?

「障害等を理由とする修学上の支援の実施について(回答)」は各授業についての合理的配慮がまとめて書かれています。しかし、授業の内容や目的、進行によっては該当しないもの、また実施が難しいものがあることもあります。該当はするが実施が難しいということがあれば、アビリティ支援センターまでご相談ください。


「障害等を理由とする修学上の支援の実施について(回答)」が手元に届くのが授業開始後になっています。もっと早くできないでしょうか?

履修科目によって必要な配慮が異なるため、履修科目登録が終わるまで手続きが進まない部分があります。その後合理的配慮の審議が行われますので、お手元に届くのが授業開始後になってしまいます。学生の履修予定科目が決まっていれば、登録に先立って変更・調整の協議ができますので、そのようにサポートをしているところです。ご理解をいただけますと幸いです。


合理的配慮として、期末テストの別室での受験が書かれていますが、部屋と試験監督の人員の問題で困難ではないかと思います。どうすれば良いでしょうか?

部屋や人員を確保できるかをご確認いただいて、なお難しいようであればアビリティ支援センターまでご連絡ください。こちらで試験監督を担当するということが可能なこともあります。また、学生とも協議して別の方法を検討するということもあります。


グループワークでの配慮について、周囲の学生に本人の障害のことを知らせてはいけないでしょうか? 特別な配慮をしていることが説明できないと教員としても対応が難しいのですが。

グループワークの内容や配慮の内容によっては、周囲の学生の理解が必要なことも出てくると思います。その際には、そのことを本人に説明し、どのような形であれば実施ができるかを話しあってください。検討に困難を覚えたり、仲介者が必要である際には、アビリティ支援センターまでご連絡ください。


合理的配慮の申請に関して、教員が記入の必要な書類などはありますか?

ございません。書類作成および申請は学生本人が行います。難しい際にはご家族の協力を仰いだり、アビリティ支援センターで支援を行うことはあります。また、先生方がこれにご協力いただいても問題はありませんが、必要な作業という点では必要なことはありません。
なお、申請書が提出された後に、各科目について変更・調整が可能であるかの検討を行いますが、これについてはご協力を仰ぐことをご承知おきください。


気になる学生がいたら

授業や学生指導の中で、気になる学生、対応の難しさを感じる学生がいる、あるいは学生から困りごとや障害について相談を受けてどのような対応が求められるか分からない、といったことがあった際には、下記の窓口にご相談ください。

先生方のお話を聞いて、学生への対応について一緒に検討したく思います。

窓口名説明
学生相談センター教育連携室学生支援全般の教職員向け窓口です。どこに相談したら良いか分からない時は、こちらにご相談ください。
アビリティ支援センター障害のある学生の支援の窓口です。障害のある学生の対応を知りたい、あるいは障害に関連した問題かもしれない、といった時にはご相談ください。学生との話の中で必要であれば直接ご紹介いただいても結構です。

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